2010年8月6日追記 - ふと立ち止まり、古い自分の記事を読み、ネットで知り合った松本進作先生を思い出す。療養生活の傍ら「Dr.松本の医学落穂拾い」(なんと、甥御さんか姪御さんがバックナンバーを復活させてくれてます!感謝!でも、本文が消えている...^^;)で自分の思いを書かれていた松本先生に一度もお会いしたことは無かったけど、質問に対して丁寧に返事をしてくださった態度からその人柄はうかがえましたね。松本先生は私の記事にも丁寧なコメントを残して頂き、今となっては誇りになってます。さて、突然なんですが、私の古い記事にいくつか追記をしていく。新しい情報を咀嚼し続けているから、情報は新しくしなきゃね。これは、医者に限らず、人間が生きている限り続けなければならない作業でしょう。読者の皆さんも、新しい知見があれば教えて下さい。
-----ここからオリジナルなんだけど、追記もあるよ-----
こんな所でぶっちゃけて話す必要はないけど、私は本を読むのが遅い。全然自慢にならないから、ここやここ、そして有名なここを読む度に。溜息しか出ないって感じだ。
「あんなに読むのは無理だ。」とネガティブな気持ちにならないで、多読できる人がいるんだから私もいずれ出来る気がしている(笑)。そんなわけで本を持って歩くようになった(笑)。
私の読書の話はさておき、ネットで偶然巡り会うことができた松本先生に紹介してもらった本、桜美林大学の柴田博教授の書いた「ここがおかしい日本人の栄養の常識」を紹介しよう。
「東京都老人医療センターの老人研で行われた100歳検診のデーターによると、少々小太りの人のほうが長生きであると報告されています。今日の少々メタボの人のことです。」と、松本先生はブログでおっしゃっていたので、その根拠をお尋ねしたところ、この本を紹介していただけました。
読んでみると、興味深い視点(国民健康栄養調査のデータ)から今の日本人の栄養状態を論じているから、欧米のデータを紹介している私のような人間には、いい戒めになりました。
それでも、柴田先生の論法に納得できない部分はある。ざっと取りあげて自分の知識の整理もする。
これだけは納得できないという点を1つ挙げる。「太っている人ほど早死にする?」のセクションにはやっぱり問題があるだろう。
メタボリックシンドローム(以下メタボ)の定義は新しい(概念は古いけど)。メタボっていうのは内臓脂肪の過多な状態(内臓脂肪面積100平方センチメートル以上)であり、BMI値と関係はない。どうもBMI値とメタボを混同してしまう人が多いようだ。
この定義は新しいので、メタボは長生きできるかどうか今の時点で答えは無い。これからの前向きな研究で明らかにされていくだろう。したがって、今は断定的なモノの言い方はできないはずだ。
内臓脂肪を多少つけて長生きするよりも、ガリガリにやせて早死にする方がよいと考えるのは、特殊な美意識の持ち主か、タコツボ的専門家のみであろう。
柴田先生のこの発言は極端すぎるんじゃないかな。説明している柴田先生自身が内臓脂肪過多とBMI値を混同しているように見受けられる。というのも先生が根拠にしている国民健康栄養調査には、内臓脂肪に関するデータ(腹囲)は全く含まれないからだ。
先生は、「太っている=BMI値高値」という考えを持たれているから、日本人のデータを見て、「BMI値低下=太っていない」という結論になっている。
しかし、日本人にとって、そもそも「太っている=BMI値高値」という考えが当てはまらないんじゃないかな。日本人の肥満は白人や黒人の多い欧米の肥満と異なる(まだ確証は無い。2010年8月6日追記:まあ勉強不足でしたね。最近ちょっとこの話を話題にしているから「BMI と WHR はどちらがいい? - 屋台ブルーの補足」を読むといいだろう。)。人種差で説明もされている。インスリン分泌能が弱いんじゃないかとか、節約遺伝子の発現に差があるんじゃないかとか、色々な理由が挙げられていて、明らかに肥満状態に差がありそうだ。
日本人は、健康的な肥満者は少なく、少し肥満が進めば病気を発症させてしまう特徴がありそうだ。腹囲(メタボのスクリーニング検査)が85センチの男性で、平均BMI値22(2年前の坂出市民病院の健診データより)というデータがある。そもそも腹囲85センチで内臓脂肪を評価する点に問題はあるけど、BMI値で肥満かどうかの判断はできないだろう。
まだまだ腹囲を含めて検証の余地はあるし、日本人の肥満の定義がハッキリしない今、BMI値で健康かどうか論議すること自体無駄だろう。ゆえに柴田先生のように断定したモノの言い方をされると抵抗を覚えてしまうのは私だけ?
その他の気になるところを挙げると、女性ホルモンのエストロゲンは脂肪組織から分泌されるって話も知らなかった。コンセンサスの得られている情報なのだろうか?もしそうなら私の勉強不足になるだろう。少し調べる必要がありそうだ。(2010年8月6日追記:これも私の勉強不足でしたね。まさに教科書レベルの話のようでした。女性ホルモン(エストロゲン)の産生は、卵巣だけでなく脂肪組織、視床下部などP450アロマターゼという酵素が発現している組織で産生されるそうだ。卵巣や副腎で産生されたアンドロステンジオンが脂肪組織でエストロン(E1)に変換され、一部エストラジオール(E2)にも転換されみたいだ。まあ詳しい代謝経路はもう少し勉強しないといけないね。)
「糖尿病が激増している?」のセクションで、柴田先生達が調査している群馬県の40〜79歳のT村の住民のヘモグロビンA1c(糖尿病マーカー)の10年間のトレンドを示している次の図を見てください。
このデータでみても、糖尿病が一貫して増えているとする根拠はまったく見当たらないことがわかる。
差があるように見えるのは私だけなんだろうか。確かに空腹時血糖の推移のグラフ(示さないけど)は年次的な変化が見られなかった。しかし、血糖値とは異なり、ヘモグロビンA1cの場合、0.1の変化に大きな意味があるんじゃないだろうか? 確かに糖尿病の増加の説明になっていないだろう。しかし、将来、耐糖能異常の問題が出てくると示唆しているように見えるんですけど...
最後にもう一つ、「良い食品、悪い食品がある?」のセクションで、「良い食品と悪い食品に分ける発想は、食と栄養のバランスに対して最も有害なものといえよう。」と書かれているけれど、この考えには同意できない。栄養素偏重主義に反対して食品を食べようという考えには同感できるけど、加工食品の問題に触れていないところが不十分だと思う。同じ油でもトランス脂肪酸のような人工物の問題にも触れて欲しかった。
健康科学の世界もいまだ ”植民地” である。日本に多い病気の専門家より、欧米に多い病気の専門家の方が多い状態であるからだ。
柴田先生のこの言葉には考えさせられる。本当にまだまだ分かっていない事だらけだ。
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