ビールで筋肉老化防止?
文;屋台ブルー <ライフログ・オーガナイザー>
フラボノイド、馴染みのある栄養素で身体に良さそうですよね。
しかし、フラボノイドって何ですか?と訊ねてみても的確な答えは返ってこないことが多い。医療の専門家でもフラボノイドを正確に説明できる人は少ないのかも。
じゃあフラボノイドって何なんでしょう。9月20日の日本経済新聞「ビールが筋肉老化抑制 毎日83リットル飲めば」と9月21日の朝日新聞「ビール、筋肉の老化防止」で紹介されたニュースが少し話題になっているんで、オリジナル文献の記載を使ってフラボノイドの説明をしていこう。
「エクササイズ・ピル」の記事を書いた頃に読んだ文献の抄読会風とはいかなけいど、イントロダクションを中心に話をする。イントロダクションに最近の話題が書かれているからね。
フラボノイドってのは、天然に存在するファイトケミカル(植物由来の有機化合物)の1つで、マロニルCoAとp-クマロイルCoAが重合してできる植物由来の二次代謝産物という説明がウィキペディアでされている。1つの化合物を指しているのでは無く、フラバンという骨格を基本形として色々な糖の装飾がついている化合物の総称である。
このフラボノイドの中にナリンゲニンというニュースでとり挙げられたフラボノイドが含まれる。ちょうどウィキペディアにフラバノンの生合成経路の一例としてナリンゲニンが出ているので見るといいだろう。
このニュースを読むと、フラボノイドに筋萎縮抑制の働きがあると早とちりしてしまいそうだ。実は「プレニル化フラボノイド」と書かれているように「プレニル化」っていうのが今回の報告の肝になっている。
プレニル化フラボノイドというのは、疎水性のプレニル基(炭素数5のイソプレン単位)が付加されたフラボノイドのことで、プレニル化カルコン、プレニル化フラボン、プレニル化フラボノール、プレニル化フラバノンなど代表的なプレニル化フラボノイドは、主に植物の根、葉、種に存在する。
プレニル化フラバノンは、マメ科、クワ科、キク科に存在するし、プレニル化フラボノイドは最近の研究から、強力な生理活性が示されている。例えば、プレニル化フラボノール、イカリチンには、癌細胞の細胞周期を止めることで細胞増殖を抑える働きがある。
マメ科の多年草、クララの根から抽出したプレニル化フラバノンには、抗菌作用および抗男性ホルモン作用が認められた。
マメ科(Psoralea corylifolia)やクワ科(Mori Cortex Radics)から抽出されたプレニル化フラボンは、神経細胞のNO産生を抑えることも示されている。
ナリンゲニンに関して言えば、プレニル化することで、そのエストロゲン作用(女性ホルモン)やルテオリンのチロシナーゼ活性が増強された。
これらの現象、非プレニル体に比べてプレニル化フラボノイドが優位な結果は、すべて試験管内(インビトロ)実験から得られたものであり、生体内(インビボ)での生理学的活性や食事として摂取した時の生体利用能に関する情報はほとんど無かった。
最近になって、ササキ先生が、マメ科のクララからフラボノイドをプレニル化できる酵素、プレニルトランスフェラーゼを発見してクローニングに成功した。要するにある程度まとまった量の酵素が使えるようになったため、この酵素を使って色々なフラボノイドをプレニール化できるよになったという訳だ。そこで、インビボな実験系を使って生理活性を調べる研究が始まり、今回の実験に繋がってきたというわけ。
彼らが注目したのが、プレニル化ナリンゲニン。最初に言うけど、決してナリンゲニンに注目していた訳ではない。実はクワ科のホップ、ホップと言えばビールの原料ですが、ナリンゲニンはホップに含まれず、グレープフルーツや酸っぱいオレンジに含まれていて、これらを食べても体内でプレニル化ナリンゲニンにならない。じゃあプレニル化ナリンゲニンはどこから来るのか?
プレニル化カルコン、キサントフモールというフラボノイドが、ホップに含まれている。そして、このキサントフモール、ビールの生産過程で、閉環反応(フラボノイドの基本骨格は多環式でキサントフモールはこの環状構造が1つオープンしている)によってイソキサントフモールになり、肝臓のCYP450酵素(これも超有名な酵素)や人の腸内細菌叢によって、プレニール化ナリンゲニン(8-PN)に変換されるということだ。
ナリンゲニンを体内に取り入れてプレニル化ナリンゲニンに変換されている訳じゃ無い。更に重要なことは、ビールに最も多く含まれているのはイソキサントフモールであり代謝産物としてプレニル化ナリンゲニンを吸収している可能性があると著者のグループは考えている。
本当にビールを飲んで生体内でプレニル化ナリンゲニンが生体利用できているかどうかの確証はない。8-PNを含むサプリメントを摂取して生理活性がある可能性を示した報告はあるが、ニュースで話しているビールの話は彼らの仮説であり少しばかり突拍子がないように感じた。
Therefore, humans may ingest 8-PN as a metabolite of isoxanthohumol as well as a hop ingredient in beer.
- それゆえに、ビールに含まれるホップの含有物と同様にイソキサントフモールの代謝産物として8-PNを人間は摂取しているのかもしれない -
動物実験や培養細胞を使った実験からプレニル化ナリンゲニンに更年期のホットフラッシュや骨密度低下を抑える効果や、エストロゲン効果を高まる働きが増強されていることから、食事性のフラボノイドをプレニル化することが生理活性に重要なんじゃないかと彼らは想像した訳だ。
プレニル化ナリンゲニンと単なるナリンゲニンを経口投与させて比較した結果、プレニル化ナリンゲニンに強い生理活性が示され組織移行性も高いという結果が示された。その理由はやっぱりプレニル化だ。最初に説明したようにプレニル化というのは疎水性のプレニル基が付加されることで、疎水性というのは脂溶性ということ。細胞膜との親和性が高いため細胞内へ取り込まれやすく留まりやすいため少量摂取でも長期間になれば蓄積されて効果が得られるかもしれないと言う話をしているんだ。フラボノイドを生体内で効率よく効果発現させるためにプレニル化してやることが重要じゃないかと締めくくっているところが、この報告のポイントだろう。
PS. おっと、実験の結果を書いてないな。まあ、新聞の記事でいいんじゃないかな。新聞の記事のリンクが切れたら文献のデータをまた改めて書き加えます。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
ビール好きとしては、珍しく嬉しいお話かと喜んだのですが、毎日83リットルとは。。。苦笑
やはり地道にトレーニングしかないのですね。
投稿: まるゆ | 2012年9月26日 (水) 11時22分
フラボノイド、、、確かに聞いた事はあっても何なのかはわかりませんでした。私には難しくて読んでもまだわかりませんが笑
これを機に「筋肉老化防止にはビール!」なんて宣伝も出てきそうですね笑
投稿: HY | 2012年9月26日 (水) 12時10分
6000344です。私は痛風持ちなのでビールが老化防止にいいと言われても厳しいですね。しかし、ビールが好きな人はいくらでも平気で飲む方も多いので、そういう人達は期待大かもしれないですね。
投稿: 6000344 | 2012年9月26日 (水) 12時40分
83リットルというのはまた無茶な話ですね。。。。
筋肉老化抑制の前に違う原因で体調を崩しそうです。
とはいえ、何にでも秘めた栄養分があるものなんですね。
ビールからフラボノイドとは想像できませんでした。。。。
投稿: @K | 2012年9月26日 (水) 12時54分
40歳を超えて尚、一線で活躍するアスリートはどれくらいの飲酒量なんでしょうね。
飲酒も含めてどのような食生活を送っているのか、気になります。
投稿: kirichan | 2012年9月27日 (木) 12時32分
超高齢化社会を迎える日本において老化防止、寝たきり予防は大事な課題ですよね。
身近な食べ物でそんなことができるとなると興味深いです。
研究が深まれば自分や親の老後に役立ちそうです。
投稿: anmitsu | 2012年10月 2日 (火) 16時47分
ビール党には朗報と思いきや、83Lとは・・・!
フラボノイドとビールの関係も思いもよりませんでした。
これからも、尿酸値を気にしながらビールをこよなく愛していきます。
投稿: tommy | 2012年10月 4日 (木) 12時22分
ビール83Lはものすごい量ですね。尿酸値も気になりますが、肝臓もダメージ受けますよね。やはり何でも適量がいいのですかねぇ。
投稿: ドキンチャンの父 | 2012年10月 5日 (金) 10時36分
83リットルは無理ですが、3リットルくらいは・・。効果はなさそうですね。毎日地道に犬とウォーキングすることにします。
投稿: Deep | 2012年10月 5日 (金) 15時21分
フラボノイドはガムに含まれている程度の認識しかありませんでしたが、このように様々な研究成果が示されている物質とはじめて知りました。また、まさかビールと関連性がある物質というのもはじめて知りました。プレニル化によってフラボノイトドもっと生体内で効率的に効果を発揮させる事が可能かもしれないというのも興味深いですね。その方法が確立すればビールをわざわざ83リットル飲む必要は無くなりそうですね。
投稿: yasupon | 2012年10月10日 (水) 14時41分
中盤の内容が難解でした。。。
とりあえず、今度飲みに行ったらビールと枝豆を食べてフラボノイドの摂取に励みます!!
投稿: さくらもち | 2012年10月11日 (木) 17時04分
日経新聞が取り上げたのがまた興味深いですね。これがビール屋さんの売上に繋がるかどうかといえば・・・。どのような経済効果が見込まれるのかも気になりました。
投稿: penny | 2012年10月18日 (木) 11時46分
徳島大学のデータなんですね。早くプレニル化フラボノイドを豊富に含んだ健康食品の開発をして欲しいです。
以前、杜仲茶でも筋肉老化抑制作用があると聞いたことがあるような…。
投稿: sakichan | 2012年10月18日 (木) 17時50分