ビタミンD欠乏症に関する治療ガイドライン
文:屋台ブルー <ライフログ・オーガナイザー>
6月13日に内分泌学会からビタミンD欠乏症の評価、治療そして予防のガイドラインが発表された。これは私にとって非常に興味深い内容なんで皆さんに紹介したい。でも注意してください。これはヨーロッパを中心にした内分泌学会のガイドラインなので、アジア系、特に日本人でも同じことが言えることかどうか知らないからね。私の意見も内分泌専門医から見た意見じゃなく個人的な意見なので、私の意見を参考にして健康障害に陥っても責任は持てないことを最初に言っておく。
さて、これから話す内容は、私が愛読しているMedscape(会員制)の内容なので、オリジナルの記事にリンクできないけど、内容を抜粋して自分の意見を入れていく。医療関係者向けの内容を一般の人でも分かるように解説を加えているけど、この解説がくせ者で間違っている可能性も大いにあり。もし目につく間違いがあればご指摘ください。
「ビタミンD*」、古くからその存在は知られていたけど、その未知なる力は最近になって話題になっている。身体で生成できない身体に必須の栄養素に冠したビタミンという称号から長らく誤解を与えてしまった感は拭えない。また、ビタミンDは局所で生理活性を示す反応もあったため、なかなか本質を捉えることができなかった。脂溶性の性質は細胞内に入り込む能力を意味しており、核内レセプターの発見を境に遺伝子の発現制御という重要な働きが明らかにされてきた。また、ビタミンDの前駆体は皮膚に存在して、紫外線の力によりビタミンDは生成されていることもわかり、ビタミンという称号が全く見当違いっだったという認識にもなっている。
*ビタミンDにはビタミンD2とビタミンD3があるけど、身体の中で最終的にビタミンD3になるので、ここでは分かりやすくビタミンDとする。
更に、最近あらゆる年齢層でビタミンDが不足していることが疫学調査で明らかにされてきている。「ビタミンD不足で子供達は太る」の私のコメントを読んでもらったら分かるけど、ビタミンD不足は日本でも蔓延していることでしょう。
じゃあ食事からビタミンDを摂ればいいじゃないかっていう話になるけど、このビタミンD、実は食事で摂りにくい。ここのページを見ればわかるけど、魚とキノコ類以外はほとんど含まれていない。キクラゲ100g/440μg、あんこうのきも100g/110μgは多いけど、「ビタミンD:十分に摂取している?」で説明している上限量の50μgを摂るためにこういう食材を毎日取るってのは現実味が無い。それに、今日の報告から厚生労働省が定めている日本人の食事摂取基準(2008年版)のビタミンDの摂取上限量50μgは少な過ぎ、今度改正するする時に大きく変わる可能性もあるよね。
じゃあやっぱりサプリメントって話になるかもしれないが、忘れていませんか?ビタミンDは日光に当たれば生成されるんですよ。本家Diet Blogで紹介するタイミングを逃してしまったけど、「Gwyneth Paltrow's Brittle Bones: Is Extreme Dieting to Blame?(グウィネス・パルトローの脆い骨:極端なダイエットは責められるべき?」という記事がある。
彼女を知っているかな?1995年のデビィット・フィンチャー監督、モーガン・フリーマンやブラッド・ピットが主演したサイコサスペンス映画「セブン」でブラビの可愛らしい奥さん役で出演して注目され、1998年に「恋に落ちたシェイクスピア」でアカデミー賞主演女優賞受賞の今や誰もが認めるハリウッド女優、グウィネス・パルトロー。
彼女は実社会でも「マクロビオティック・ダイエット」を実践していて、健康と美貌の維持にかなり気を遣っている。そんな、彼女が数年前、脛骨プラトー骨折で整形外科医の先生に診てもらった時に骨量減少の指摘を受けた。日光にもっとあたりなさいというアドバイスをもらったけど、日光みたいな危険なものになぜあたらなければならないのか当惑したそうだ。極端な日光嫌いは骨を脆くしてしまう例としてよく話に挙がる。
日光を毛嫌いしている人は多い。確かにあたりすぎるとシワやシミの原因になるし皮膚がんのリスクもあるだろ。しかし、不足はもっと悪い。骨が脆くなるどころか他の健康障害も作り出してしまう。問題は、この「日光」、どの位あたればいいのか個人差が大きく分からないところだ、季節や住んでいる場所、天気にも左右される。季節の影響というのは、当然太陽光線の入射角のことで、住んでいる場所というのも緯度の事をさしていて、北半球で考えれば、北緯35度線問題がある。北緯35度より以北に住んでいると日照不足に陥りやすい。日本で言えば、関東より北に住んでいれば日照不足、屋内で仕事をしていると更にビタミンD不足になりやすい。
肌の色だって関係がある。色が黒ければ更に長時間の日光暴露が必要になる。米国では、黒人がビタミンD不足のリスクファクターになっている。ビタミンDは脂溶性なんで、脂肪組織にトラップされやすい肥満もリスクになりえる。ということはどのくらい日光にあたればいいのか各人で検証しなければならないだろう。この問題は後ほど検討しよう。
はっきり言ってここまでの話は前置きだ。ビタミンDに関する基本事項のおさらいをしたと思ってください。ここから本題に入る。
Michael F. Hlick医師が中心になってビタミンDの評価・治療・予防のガイドライン作成をした結果が、ENDO2011で発表されて、雑誌Journal of Clinical Endocrinology & Metablismの6月6日号に掲載された。
彼の発言に"Based on all the evidence, at a minimum, we recommend vitamin D levels of 30 ng/mL, and because of the vagaries of some of the assays, to guarantee sufficiency, we recommend between 40 and 60 ng/mL for both children and adults," というセンテンスがあるが、これを日本語にすると「全てのエビデンスを考えた上で、最低限、ビタミンDのレベルを30ng/mLにするのが望ましいだろう。そして、[検査法の標準化がされていないので(意訳)]、検査値のバラツキも考えられるため、十分量を維持するために、子供でも大人でも、40〜60ng/mLにするのが望ましい。」ということになる。ここで私が疑問に思ったのは、彼が言及している「ビタミンDのレベル」とは何だ?肝臓でヒドロキシル化する前のビタミンDなのかした後の25(OH)Dなのかちょっと悩んでしまった。
ヒドロキシル化していないビタミンDの測定も標準化されていない。でも、ここで彼が言及しているビタミンDレベルは25(OH)Dのことなんでしょうね。25(OH)Dのレベルを30ng/mLに維持させるとういガイドラインの目標も納得できる。
そして彼がまた発言している部分に「?」がある。"We do not recommend population screening for vitamin D deficiency in individuals who are not at risk," Dr. Holick said, but added that "vitamin D deficiency is very common in all age groups — essentially everyone is at risk."
これを訳すと、「リスクのない人のビタミンD欠乏症のスクリーニング検査は勧めない、とHolick医師は言いながらも、ビタミンD欠乏症は全ての年齢層で広がっていて、基本的に全ての人にリスクがある」・・・ なんじゃそりゃ!?、じゃあスクリーニングしろってこと?なんとも歯切れの悪いお言葉。
スクリーニング検査は、「信頼できる測定法」で25(OH)Dを測定すること、1,25(OH)2Dじゃないよ。これはビタミンDの欠乏かどうか分からないからね。というのは当然と言えば当然。1,25(OH)2Dは活性型のビタミンDなんで非常に微量、半減期も短いから、これが高い低いで欠乏症かどうか判断できない。
さて今回、欠乏症の基準値が示されました。この25(OH)Dが20ng/mLを下回ると、ビタミンD欠乏症になる。私のクリニックでは、25(OH)Dを外注しており、福山臨床検査センターに提出しているけど、その基準値は(9.0-33.9ng/mL)になっている。おいおい基準値が低いですね。ほとんどビタミンD不足じゃん、ってことになる。(*25(OH)Dを格安で検査して下さる検査会社ありませんか?福山臨床検査センターも外注しているらしく検査コストが高すぎ(T_T))
ビタミンD欠乏症の評価はここまでで、ここから、ビタミンD欠乏予防のためのサプリメンテーションの話に入る。←日光浴の話はここに含まれていないから注意
サプリメントの単位はヨーロッパや北米ではIU(国際単位)を使用しているから、ビタミンD1IU=0.025μgで並べて表記しておく。
骨の健康を考えると、1歳までの乳幼児では、400IU(10μg)/日必要で、1歳以上なら600iU(15μg)日、とガイドラインに記載されているけど、25(OH)Dを常に30ng/mL以上維持するために少なくともビタミンDを1000IU(25μg)/必要になると書かれている。
19歳から70歳の成人の場合、骨の健康や筋力を最大限にするためにビタミンDが600IU(15μg/)日必要なんだけど、25(OH)Dを常に30ng/mL以上に維持するため、少なくとも1500IU(37.5μg)から2000IU(50μg)日必要になる。
70歳以上の場合、骨の健康や転倒予防のためビタミンDを少なくとも800IU(20μg)必要で、同様に25(OH)Dを30ng/mL以上にするため1500IU(37.5μg)から2000IU(50μg)日のサプリメンテーションをする必要がある。
妊婦や母乳を与えている女性の場合、600IU(15μg)/日のビタミンDが必要で、25(OH)Dを30ng/mL胃女維持するために1500IU(37.5μg)/日必要になるようだ。
特殊な例、肥満の子供や大人、抗けいれん薬服用中、ステロイド服用中、ケトコナゾールのような抗真菌薬を内服していたり、AIDSの薬物治療をしている場合、必要量の2〜3倍摂取する必要があると、Holick医師は報告している。
次に許容上限量も示している。けどこの上限値は医学監督下無しで超えるべじゃない数値ということになる。裏を返せば、医学監督下にあれば越えられる値でもある。意外にゆるい上限値と言えるだろう。まあどう捉えるかは人によるけどね。
6ヶ月までの乳幼児:1000IU(25μg)/日
6ヶ月から1歳までの乳幼児:1500IU(37.5μg)/日
1歳から3歳までの子供:2500IU(62.5μg)/日
4歳から8歳までの子供:3000IU(75μg)/日
8歳以上なら誰でも:4000IU(100μg)/日
しかしながら、ビタミンD欠乏症になるとこの上限値はかなり緩んでしまう。
1歳までの乳幼児:2000IU(50μg)/日
1歳から18歳までの子供:4000IU(100μg)/日
19歳以上の成人なら:10,000IU(250μg)/日
ここまで必要になるだろうって話になっている。
さて、最初っから無視していたけど、ビタミンD2とD3の違いは無い。どちらも同等の効果でしょう。
さて、ここまで色々数字を示したけど、この数値は、あくあでも骨と骨格筋の健康を最大限に引き出すための基準値になる。しかし、最初にビタミンDの説明をしたところで触れたように、骨や骨格筋の以外の効果にどれだけ影響があるのかは全く分かっていない。心血管イベントの予防、ある種の発ガン、大腸癌予防、感染症予防、糖尿病発症予防や高血圧症予防にもビタミンDが関わっているというエビデンスはあるけど、具体的な数値を出せるエビデンスは不足している。
しかしながら、今回の報告で、ビタミンDの上限量や推奨量を具体的にスパッと呈示していて気持ちいい。何度も言うけど日本人にそのまま当てはまるかどうかは全く分からないけど、日本人の食事摂取基準で示されているビタミンDの摂取量は非常に低いって気はする。しかし、ここに日光暴露時間を全く考慮していないところが、内分泌専門家らしい狭い了見を感じるね。まあ私に言わせれば専門バカに見えるけど、皆さん、黙っていてね。
ちょっと話し疲れたから日光暴露に関する話は機会を改めよう。私のビタミンDの値の報告もまた今度報告しよう。
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コメント
確かにビタミンDが生体で合成できるのならビタミンではないですよね!全く目から鱗です。博多ラーメンが好きな私でも木耳100gはちょっと無理ですよ。でも充分に日焼けしているので心配は無いのでしょう。問題は発癌との関係です。ビタミンDは発癌に抑制的に働く様ですが、日焼けと発癌の関係は少し気になります。
投稿: ojalman | 2011年6月24日 (金) 01時11分