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2010年3月21日 (日)

Third-hand smoke(三次喫煙)のことなど...

"Third-hand smoke"(三次喫煙)という言葉をご存知でしょうか。Third-hand smoke について、Scienticfi AmericanWhat is third-hand smoke? Is it hazardous?Third-hand smoke contains carcinogens too, study says という2つの記事が載っているのでまとめてみました。

なお原文の "Third-hand smoke" の訳語として「三次喫煙」という言葉もあるようですが、個人的にはどうもしっくりきません。というのは、原文の用語は、文脈から判断するに物質ないしはプロセスを指していると思われますが、日本語の「喫煙」という言葉はタバコを吸う「動作」を想起させるからです。ここではさしあたり "Third-hand smoke" のままにします。「タバコ残留汚染(物質)」というのはどうだろうか?

なお、その他の "Third-hand smoke" 関連記事については、こちらの索引をご覧ください。

この2つの記事と後述のニュースレポートを読むと、もはや「喫煙は個人の自由」とは言えなくなるかもしれませんね。個人的見解ですが、「喫煙するか否か」は依然として個人の選択の自由ですが、「喫煙する」ことを選択する場合は、"Second-hand smoke" および "Third-hand smoke" のことも充分考慮してほしいということでしょうか。この3つの記事の内容が現実なら、喫煙すれば、それだけで乳幼児や子供たちには充分過ぎるほどの被害が及ぶ可能性があります。

Third-hand smoke というのは、吸ったタバコを消しても、その後に残っているタバコの煙からくる汚染物質がカーペットやソファ、衣類をはじめ、さまざまな物に付着し、時間の経過とともに蓄積されていくことを指します。1本めのタバコの煙で部屋の表面が覆われ、2本めの煙でその表面がさらに上塗りされるというぐあいです。その表面には喫煙者自身も含まれており、その衣類や毛髪などに汚染物質が付着しています。そういう環境に存在する汚染物質が鼻腔から体内に取り込まれるところなど目に見えないし、見えなければ無害だろうと考えてしまいます。しかしそしてそういう環境に乳幼児や子供がいるとその健康を害するのです。

Third-hand smoke というのは比較的新しい考え方ですが、研究者や非喫煙者の間では、何年か前から懸念されていたとのことで、Third-hand smoke の持つ毒性は、たとえば車の排気ガスに含まれる粒子のような他の環境有害物質などとは比べものにならないほど天文学的です。

にもかかわらず、調査によると喫煙者は、この Third-hand smoke についてはまったく無頓着でした。喫煙者と非喫煙者合わせて1500名を対象に調査したところ、受動喫煙(Second-hand smoke)については大半が危険だ答えましたたが、「前日誰かがタバコを吸った部屋の空気を今日乳幼児や子供が吸うとその健康を害する」という見解については、同意したのは非喫煙者で65パーセント、喫煙者では43パーセントしかいなかったそうです。

Third-hand smoke が潜在的に有害なのは、タバコの煙に含まれる分子を吸い込むからだけではなく、皮膚に直接触れたり、たまたま吸い込んでしまうからです。戸外で吸っても、室内で吸うよりはマシですが、喫煙者の皮膚や衣類にニコチンが付着して残ります。それが喫煙者に付いてまわり、周囲に拡散されてしまいます。Third-hand smoke による健康被害は過小評価されています。

の表面に層をなして蓄積したタバコの煙による汚染物質にもっとも接近するのは赤ん坊と子供です。赤ん坊と子供は汚染された表面に触ったり、場合によっては舐めたりします。発育途上の脳は微量の毒素でもきわめて影響を受けやすいのです。子供の吸入量は大人の倍です。大人の体重を68キログラム、赤ん坊の体重を7キログラムとすると、赤ん坊は大人の2倍の埃を体内に取り込みます。なぜなら大人よりも呼吸が速く、埃だらけの表面に近いからです。実際は大人の20倍も余計に汚染にさらされているのです。

2006年の米公衆衛生局長官レポートによると、どの程度までならタバコの煙にさらされても大丈夫かなどという基準は存在しません。

らにタバコの煙の残留物は、ガス器具や車などから排出される亜硝酸と反応して「タバコ特異的ニトロソアミン」(TSNA)という強力な発ガン性物質を作り出します。

動喫煙で吸い込む煙にもTSNAは含まれていますが、周囲に亜硝酸が存在すると、タバコの煙が無くなっても、その後何時間かの間にTSNAの量が増加します。1本のタバコの副流煙に含まれるTSNAは100ナノグラム相当。亜硝酸が存在すると、室内の表面には1立方メートルあたり数百ナノグラムのニトロソアミンが生成される場合があります。このニコチンが何週間も何ヶ月も物の表面に残っていると、その表面が壁や車のダッシュボードのような固いものだと、その汚染はタバコの煙や受動喫煙よりもずっとしつこくなります。

Third-hand smoke でいちばん被害を受けやすいのは子供です。喫煙者が部屋に来ると、子供は皮膚からニコチンを吸収してしまう可能性があります。通常、空気中には亜硝酸があるものなので、それによってTSNAが生成されます。幼い子供は埃を吸い込む可能性も高いですから、TSNAも大人よりも余計に吸収してしまうのです。

米ローレンス・バークレー国立研究所(バークレー研究所)が行った Third-hand smoke の危険性関する研究結果が載っているニュースリリースによると、この研究者らは次にように語っています。

「タバコに火を点けると蒸気の形でニコチンが放出され、それが壁や床、カーペット、カーテン、家具など、室内の表面にピッタリ吸着する。ニコチンは何日も何週間も、あるいは何ヶ月経っても、そういった物から容易には剥がれない。われわれの研究から、このニコチン残留物が周囲の亜硝酸と反応して、タバコ特異的ニトロソアミン(TSNA)が形成されることが分かった。TSNA というのは、タバコそのものとタバコの煙に存在する、もっとも広範囲に活性を示す強力な発ガン物質の一つだ」
「経時測定から TSNA の形成速度が明かになった。最初の一時間でニコチンが最大で0.4パーセント変換されるんだ。われわれの発見から言えるのは、衣類やヒトの皮膚を含む室内表面に高濃度のニコチンが急速に吸着すると、露出している皮膚や埃の吸入などから、実は過小評価されている健康被害が起きるということだ。これが Third-hand smoke の意味なのだ」

この研究者らは次のような実験を行ったそうです。

セルロースを使った部屋のモデルをタバコの煙にさらす実験をしたところ、「濃度は高いが妥当な線」と思われる亜硝酸(体積比60ppb)に3時間さらしたサンプルにもともと存在するものの10倍の量の TSNA がセルロース表面に検出された。室内で亜硝酸の主な供給源といえば換気されていないガス器具だ。また車のエンジンからも亜硝酸が排出されていて、それが車内の居住空間に侵入してくる。そこでステンレススチール製のグローブボックスを含め、ヘビースモーカーが運転するトラックの室内表面でも実験が行われた。ここでもやはり相当量の TSNA が測定された。どちらの場合でも検出された主要生成物の一つが、最初に放出されたタバコの煙には存在しない TSNA、つまりNNA というニトロソアミン だった。この反応から、NNN および NNK という強力な発ガン物質も形成された。

私たちが TSNA にさらされる可能性がもっとも高いのは、埃を吸入したり皮膚がカーペットや衣類に接触する場合です。そしてその最大の被害者が乳幼児です。この研究結果から、タバコを吸うときに窓を開けたり換気扇を回したりしても Third-hand smoke の被害は大して減らないことが分かります。研究者はこう語っています。

「戸外で吸うのは室内で吸うよりはマシだが、喫煙者の皮膚や衣類にはニコチン残留物が付着する。その残留物が喫煙者に付いてまわる。そして喫煙者が部屋に入ると残留物が至るところにまき散らされるのだ。これがいちばん危険なのは幼い子供だ。喫煙者が部屋に入ると子供の皮膚からニコチンが経皮吸収されるおそれがある。それに普通、空気には亜硝酸があるので TSNA が形成されてしまう」

"Third-hand smoke"(三次喫煙)という用語が初めて使われたのは、Pediatrics誌の2009年1月号に発表された研究においてだそうです。わずか1年前のことです。

文:fumixie <fumixie@gmail.com>

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コメント

「三次喫煙」という言葉や考え方自体を今回初めて知りました。
私を含め、家族で喫煙者はいないので、受動喫煙しか考えたことはありません。
しかし、タバコを吸う人の部屋に行かなくてはいけない状況にあったり、カラオケなどが三次喫煙の環境にあったりするので、実際どれだけ体内に吸収されているのだろうと、考えるだけでもぞっとします。

簡易的に測定できるモノや予め予防できるグッズが早く開発されてほしいものですね。

投稿: まるぴょん | 2010年3月22日 (月) 19時54分

コメント、ありがとうございます。

私も元ネタの記事を読むまではまったく知りませんでした。職場でもよく、勤務時間中は禁煙でも、終業時刻以後は喫煙可になるところがあって、残業時間になるとみんな一斉にタバコを吸い出すもんだから、10メートル先が、タバコの煙でイッキにモヤがかかったように白くなって見えなくなるんですよね。恐ろしい!!

元記事にもかかれてますが、この三次喫煙の最大の被害者は「乳幼児と幼い子供たち」、言い換えれば一人ひとりの「我が子」なんですね。

投稿: fumixie | 2010年3月22日 (月) 20時26分

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