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2009年7月16日 (木)

アルツハイマー遺伝子は60歳前に記憶力低下を加速させる

先日から紹介している国際アルツハイマー病カンファレンス、最後に衝撃的なニュースが流れた。

昨日までの内容は、文献化されていないから確かめようが無かった。しかし、今日の内容は発表と同時に雑誌報告もされていて、私が敬愛する「内科開業医のお勉強日記」でも取りあげられていた。

動脈硬化性疾患の予防、癌の予防に加えて、アルツハイマー型認知症など脳神経変性疾患の予防は、個人的に興味があるところなので、アルツハイマー型認知症の話題は非常に気になる。

未だ有効な治療法も予防法も無いアルツハイマー病の新事実が叩き付けられ、現代医学の無力さに愕然とするばかり... というのは言い過ぎかもしれないが、打つ手は今のところ無いっていうのが正直な感想だ。

詳しく情報を得るために文献を請求している。

さあ、APOE4アレルを持っていることが分かったからといってどうします?有効な予防法が無いからリスク回避もできないよね。調べるだけ自分を追い詰めるような気が...

しかし、APOE4アレルの存在を知らせる事で、その人に精神的な苦痛を与えるかどうか調べた研究報告も同時に掲載されている。何を正当化させるつもりなんだろう?

遺伝子診断キットを販売する会社にグーグルが絡んでいるのを見たら、何かしら大きなお金が絡む嫌らしい動きが引き起こされるかもしれない。「内科開業医のお勉強日記」でも触れているけど、「脳ドック」と称してアポリポ蛋白Eの測定をしているらしい。なんか無責任だよね。金にはなるだろうけど...

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アルツハイマー遺伝子は60歳前に記憶力低下を加速させる
Alzheimer's gene speeds memory declines before 60

シカゴ(Reuters) - 「アルツハイマー遺伝子」を持っている人は、認知症の症状が出ていなくても、60歳前に加齢絡みの記憶力低下が始まる、という報告が水曜日、米国の研究チームから発表された。

これとは別の研究で、二番目の研究チームが発見したのは、この遺伝子を持っていることを知らされても、精神的に傷つかなかったこと。

この両方の発見は、New England Journal of Medicineに掲載されているが、アルツハイマー病の遺伝診断を新たにサポートしている。知性が荒廃していくけど、治療法が数少なく治らない病気は、世界中で2600万人以上の人に影響を与えている。

いくつかの会社 -- アイスランドのDecode Genetics' DeDodeME, グーグルに資金援助を受けている23andMEや、プライベート会社Navigenicsなどがあるが -- ApoE4遺伝子の変異体を持っているかどうか調べるためのテストを売っている。この変異体は、アルツハイマー病のリスクを50%以上高めてしまう。

メイヨー・クリニック・アリゾナのRichard Caselli医師グループの新しい研究は、ApoE4遺伝子変異体を持っている人は、この遺伝子を持っていない人に比べて、若年から記憶障害の症状を呈していることを示した。

Casselli医師は、21歳から97歳の健常者815名を、この遺伝子によってグループ分けした。

ApoE4遺伝子を持っている人は、60歳前に、加齢による記憶障害の症状が進みやすく、両親からこの遺伝子を受け継いだ人は、記憶力低下の悪化が見られた。

ApoE4遺伝子を持っているからと言って、アルツハイマー病になる運命じゃない、ノースカロライナのデューク大学のAllen Roses医師のチームは、今週の初めにアルツハイマー病カンファレンスで、ApoE4遺伝子に密接に関わる二番目の遺伝子TOMM40も同様にアルツハイマー病のリスクを劇的に高めてしまうという報告をしている。

Roses医師は、この両方の遺伝子が、遺伝性のアルツハイマー病の85%から90%の原因になっている可能性があると話した。

”とてつもない安堵”

遺伝子診断が苦痛を与える恐れがあるから、医師は、定期的にアルツハイマー病のテストをすべきではない。

それでも、ボストン大学医学部の研究者のグループは、そんなことは問題じゃない事を示した。

彼らは、アルツハイマー病の親を持つ健常な成人の子供達に、ApoE4遺伝子のテストをして調べた。

テストされた事による精神的苦悩を、6週間、6ヶ月、1年で比較検討をして、遺伝子を持っていた人は、「テストをしなかった人に比べて、不安感は少なく、抑うつ的にもならないし、テストをしたことによる苦悩も無かった」という事実を得た、とボストン大学のRobert Green医師は述べていた。

遺伝子を持っていなかったと教えられた人たちは、「とてつもない安堵感を得た」、とGreen医師は付け加えている。

Green医師は、この研究で被験者に話したけど、まず感情的に問題があるかどうか注意深く選別してから、よく訓練を受けた遺伝子カウンセラーから診断結果を伝えてもらっている。「これは、知りたかったら誰にでも教えてあげるというような単純なリスク情報を伝えるのと同じじゃない」、と彼は話した。

この二人の研究者は、今では運営されていない遺伝子診断の会社から資金援助を受けていた。

ニューヨークのモンテフィオーレ・メディカル・センターの老年精神医学の部長、Gary Kennedy医師は、ごく身近な親戚 -- 両親、兄弟もしくは姉妹 -- にアルツハイマー病がいない限りテストをすべきじゃないと言っている。

勝手にテストをすることも勧めていない。「この研究は、遺伝子カウンセラーのチーム全体が関わっている。もし彼らが恐れを抱くようなら、そういう人物を特定できる非常に強固なセイフティーネットが存在する」、とKennedy医師は電話インタビューで話してくれた。

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コメント

生薬学の世界では既にアミロイドβの凝集抑制や分解作用のある物質が見付かっています。問題はこれがまだ試験管内の話で、生体内の話ではないことです。血液脳関門を通過するかも分かっていません。現時点で云えることは、遺伝子検査によりハイリスクな群を特定できるのであれば、臨床試験の可能性も出て来ると云うことです。

投稿: おじゃるまん | 2009年7月20日 (月) 17時25分

今後、アルツハイマー病は増える疾患であり興味深い内容でありました。特にApoE4遺伝子はある人とない人がいるようですが、遺伝子発現の要因はわかっているのかということが、興味深いところです。環境因子なのか?人種で遺伝子発現に差があるのかなど・・・。いづれにしても検査することが仮に可能となっても、その勇気は私にはありません。

投稿: REDMEN | 2009年7月30日 (木) 10時11分

ApoE4遺伝子は日本人に多いって、中村先生がおっしゃってました。

今のところApoE4を調べてもメリットが無いから、調べない方がいいでしょう。予防法も無いし、社会的な問題が絡むからです。

ApoE4を調べれば、60歳前に記憶力低下が引き起こる可能性があるわけで、入社時にApoE4を調べられたりすると、この遺伝子を持っていることを理由に昇進できないという話にもなるかもしれません。

社会問題にも繋がる非常に怖い内容です。

私が紹介したNEJMの2つの報告は非常に政治的な意図が感じられます。2報目のApoE4遺伝子を調べる事を正当化する内容を同時に載せてるところが、嫌らしいです。検査会社にグーグルなんて名前が出ているところを見ると怖いですね。

投稿: 屋台ブルー | 2009年7月30日 (木) 17時28分

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