飲酒で顔赤くなるアジア人、食道がんのリスク高い
文献中に出てくるFigure 5:アルコールに弱い人が飲むと食道癌になりやすい
二日前と同様にアルコールの話題を取りあげるけど、今日の話題は、日本人として非常に重要なので、しっかり読んで考えて欲しい。
恥ずかしいけど、私自身、アルコールと食道癌の関連性に関する知識は浅かった。
しかし、このような重要な話をロイター日本語版では「世界のこぼれ話」として報道している。こぼれ話程度に考えているロイター日本語版の記者は馬鹿だ。日本人として、もっと注目すべきだ。報告されている内容も非常に薄い。これじゃ問題提起にもならない。しっかり伝えて欲しい。
薄い内容のロイター日本語版の記事「飲酒で顔赤くなるアジア人、食道がんのリスク高い=研究」
本場のReutersはHealthのセクションを持っていて、もう少し詳しく情報を伝えているし、リファレンスとなる文献へのリンクも用意している。
Red-faced Asian drinkers at esophageal cancer risk
この文献はオンラインで公開されていて、フリーで読むことができる。医療従事者でなくとも、興味がある人は是非ダウンロードしてください。
今回文献を精読することにした。それほど日本人として重要な内容だからだ。本文の日本語訳を紹介しておく。文中の写真、図、表など、文献を確認してください。
今日の内容は、日本人なら知っていなければならない。特に重要なFigure 5をここで示しておく。
アルコール・フラッシング反応:アルコール摂取による食道癌の知られざるリスクファクター
The Alcohol Flushing Response: An Unrecognized Risk Factor for Esophageal Cancer from Alcohol Consumption
東アジア(日本、中国、韓国)の約36%は、飲酒に特徴的な反応、顔面フラッシング(Figure 1)、嘔気や頻脈などの症状を呈する[1]。これは、いわゆるアルコール・フラッシング反応(アジアン・フラッシュ、アジアン・グロー)と呼ばれていて、明らかに、アルデヒド・デヒドロゲナーゼ2酵素(ALDH2)の遺伝的な欠損による[2]。医療従事者や東アジアの公衆衛生は、アルコール・フラッシング反応のことを知っているけど、ALDH2欠損があれば、ALDH2の活性がある人に較べて、食道癌(扁平上皮がん)の危険性が非常に高くなることを知っている人は少ない。食道癌は、世界中で最も致死率の高いガンの一つで[3]、5年生存率は米国で15.6%、ヨーロッパで12.3%、そして日本では31.6%であり[4]、知らないことは非常に不幸なことである。
私たちがこの記事を書いている目的の一つは、中等量のアルコールを飲んでいるALDH2欠損の患者さんは食道癌のリスクが高くなるということ、そして二つ目に、アルコール・フラッシング反応が、ALDH2欠損のバイオマーカーになるということを医療従事者に伝えることである。症状が強いから、アルコール・フラッシング反応を引き起こすことを知っている。それゆえに、アルコールによりフラッシングを起こしたことがあるかどうか訊ねるだけで、ALDH2欠損があるかどうか医療従事者は判断できる。そして、ALDH2欠損患者に対して、アルコールの減量を指導ができ、こうした高リスクの患者さんに対して、食道癌のスクリーニング評価を受けさせることができる。日本、中国そして韓国の人口とALDH2欠損患者数の頻度を考えると[1]、世界中に少なくとも5億4千万人存在することになり、世界の人口の8%を占める。このサイズから言えるのは、ちょっとだけ食道癌の発生イベントを低下させるだけで、世界的にみた食道癌の死亡率を大幅に下げることになるだろう。
アルコール代謝の遺伝的な基礎知識(e-ヘルスネットの説明も見て)
エタノールは、アルコール・デヒドロゲナーゼ(ADH)で代謝を受け、アセトアルデヒド(Figure 2)になるが、これは、変異誘発物質であり、動物ではDNAを損傷させる発がん物質であり、他の発癌を誘導する効果も知られている[5-7]。アセトアルデヒドは引き続き、ALDH2によって、酢酸に代謝される[8]。東アジアでは、ALDH2には、大きく二つの変異体が存在していて、487番目のアミノ酸がグルタミン酸(Glu)のものと、リジン(Lys)になったもの[9]。Gluアレル(ALDH2*1と表記)は、正常の酵素活性を持つタンパク質がコードされているけど、Lysアレル(ALDH2*2)は非活性のタンパク質がコードされている。その結果、Lys/Lysのホモ接合体は、ALDH2活性を全く示さない。Lysアレルは半優性遺伝をとるので、ALDH2 Lys/Gluヘテロ接合体は、Glu/Gluホモ接合体が持っているALDH2活性の半分もない。実際、ヘテロ接合体のALDH2活性は100分の1になる[8]。
ALDH2欠損の人がアルコールを摂取すると、アセトアルデヒドに代謝され、ALDH2の活性がないため、体内で蓄積されるから、顔面フラッシング(Figure 1)、嘔気や頻脈などを引き起こす[2]。こういう好ましくない効果は、アセトアルデヒドの種々の働きによるもので、ヒスタミンの放出も含まれる[10]。この好ましくない反応のため、ALDH2 Lys/Lysホモ接合体の人は、大量のアルコールを摂取できない。その結果、アルコール消費に関わる食道癌のリスクには予防的に働いている[11]。このことは、エタノールが食道癌の原因になるエビデンスとして考えられ、アセトアルデヒドによる発癌効果が重要な役割をしめていることになる[11]。
ALDH2 Lys/Gluヘテロ接合体の場合、細胞内にALDH2活性が弱いながら残存しているので、強力なフラッシングを呈さない。その結果、アセトアルデヒドに対する寛容が生じ、フラッシングを起こしながら、習慣的に大量の飲酒をするようになる、これには社会的、文化的な影響も関わっている(後述)。それゆえに、逆に、ALDH2ヘテロ接合体で活性が低い人たちが一般的に、アルコールを飲むことによって食道癌のリスクを非常に高めてしまう。
ALDH2欠損により食道の扁平上皮がんの危険性を高めるエビデンス
最初に紹介する研究[12]は、日本人を対象として、日本と台湾におけるケース・コントロール研究から、食道の扁平上皮癌リスク(Figure 3)と、ALDH2ヘテロ接合体のアルコール消費とに強い相関が示された、オッズ比(ORs)は、アルコールの消費量で補正して、3.7から18.1とい結果だった。さらに、多くの研究で、大量飲酒をするヘテロ接合体の人は、オッズ比が10以上に跳ね上がっている[13、14]。独立したメタアナリシスの結果でも同様で、中等量のアルコール消費であっても、ヘテロ接合体の人は、危険率の上昇を示していた[11]。日本人と台湾人の研究によると、食道癌のリスクの高い人の比率(58%-69%)は、ALDH2活性の低いヘテロ接合体の人の飲酒と関連性があった[13、14]。
このケースコントロール研究の結果と同様、前向き研究、癌の無いアルコール依存症患者の追跡研究でも、ALDH2ヘテロ接合体の上気道消化管(UADT)癌の相対的危険率は、ALDH2の活性がある人に較べて12倍高くなっていた[15]。(UADTは、口腔内、咽頭、喉頭、食道を含む) 更に、ALDH5の活性が低いヘテロ接合体のアルコール飲酒は、他のガン関連疾患、多数存在する食道の異型性(前がん病変)や、複数の独立したUADT領域の癌にも関連があった[13]。
もう一つ重要な事を言えば、ALDH5欠損でも、全くアルコールを飲まなければ、食道癌のリスクへの影響は無い[11]。更に、ALDH2に関連する食道癌のリスクの程度は、与えられた集団を較べると、他のリスクファクターよりアルコールの消費に依存している。中国の地方において、そこでは、食道癌の発生率が高いけれど、アルコール消費は、日本や台湾に較べて重要ではなくて、中等度の関連性(ORs、1.7から3.1)で、ALDH2ヘテロ接合体と食道癌の危険率との関連が示されている[16]。
アセトアルデヒドが顔面フラッシングとLDH2欠損の人の食道癌のリスクの原因である
アセトアルデヒドが、ALDH2欠損の人がアルコールを飲んだ時に生じる顔面フラッシングや他の好ましくない影響の原因になる[10]。重要な事は、ALDH2欠損の人は、ALDH2の活性が完全にある人に較べて、同量のアルコールを飲んでも,アセトアルデヒドに関連するDNAや染色体の障害を多く受けているという直接的なエビデンスが存在するということで、これはそのまま発癌リスクの上昇メカニズムになっている。日本人のアルコール依存症患者の研究[17]により、変異したアセトアルデヒドによるDNA付加(Figure 4)は、ALDH2の活性がある人より、ALDH2欠損ヘテロ接合体の人(Table 1)の白血球に高頻度に見られる。この研究で、二つのグループのアルコール消費は一致していたけど、ALDH2欠損のグループは僅かばかりアルコールの消費量がコントロールに較べて少なかった。また、ALDH2ヘテロ接合体で飲酒する人は、ALDH2の活性のある飲酒者に較べて、白血球における染色体の障害も高頻度に見られた[18]。他のデータと同様にこいう結果から、2007 International Agency for Research on Cancer Working Groupによるアルコールとガンに関するアナウンスで、アセトアルデヒドが、アルコールに関する食道癌の原因になっているという多くのエビデンスが存在することを言及した[19]。
UADTがアルコールによるアセトアルデヒドとタバコの喫煙に曝されると、口腔内の微生物によるエタノールの代謝が進み、唾液内、更に延長して食道内のアセトアルデヒド産生が増加させているというエビデンスも増えている。唾液内のアセトアルデヒドのレベルは、血管内に較べて、10-20倍高濃度なのは、口腔内の微生物により局所的なアセトアルデヒドの産生が生じるからだ[21]。重要なことは、ALDH2ヘテロ接合体の人は、中等度の飲酒後、ALDH2の活性のある人に較べてアセトアルデヒドのレベルが2倍から3倍高くなる[22]。
社会的、文化的な因子によりALDH2ヘテロ接合体の人による中途量の飲酒
アルコール飲酒は、社会活動であり、文化的、社会的な力によって大きな影響を受ける。日本は、ALDH2ヘテロ接合体の人のアルコールと食道癌の危険性はしっかりと報告している国であるけど、仕事仲間と仕事の後に飲みに行くのは、日本のビジネス社会において重要な役割をしめている。仲間意識という考えは非常に強力に働いている。ALDH2の活性が低いヘテロ接合体の人が大量に飲酒するようになる率は、ここ数十年でかなり増えている。これは、日本におけるビジネス社会の広がりと平行していて、一人当たりのアルコール消費量は増えている。原田らによれば[23]、日本のアルコール依存症患者におけるALDH2の非活性の割合は非常に低い(2%)という報告を1982年にしていた。最近、プールしているDNAサンプルを使った研究で、樋口ら[24]は、1979年において、日本人のアルコール常習者のALDH2ヘテロ接合体の割合は、3%、1986年に8%、1992年に13%という報告をした。最近の研究によれば、東京の大量で大量に飲酒(一週間に400gのエタノール)をする男の約26%は、ALDH2 Lys487ヘテロ接合体を持っていた[35]。他の東アジアを見れば、ALDH2ヘテロ接合体のアルコール依存症患者の割合は、台湾で1999年に17%[26]、韓国では2007年に4%[27]であった。これをまとめて考えると、こういう結果から、ALDH2ヘテロ接合体の人がアルコール消費を抑制するには、社会的、文化的な影響を強く受け、時間経過とともに変わっていく。
現在、多くの東アジアの人々は西欧社会に生きている、特に大学や大都市に住んでいる。特に気になる集団は、大量に飲酒を押しつけられドンチャン騒ぎに参加しなければならないALDH2欠損の大学生である。さらに、ケーススタディから得られたエビデンスから、若者の一部は、顔面フラッシングを美容上の問題として捉え、抗ヒスタミン薬を使用して、アルコールを飲むためにフラッシングを抑える努力をしている[28]。こんなことをすれば、食道癌を伸展させる危険性を高めてしまうだろう。
教育と初期診断により食道癌の世界規模の困難を緩和させる
東アジア出身の患者を扱っている医療従事者は、アルコールを摂取するALDH2欠損患者の食道癌のリスクを知っていないといけない。重要な事は、過去にアルコール・フラッシングを起こしことがあるかどうか訊ねることで、東アジア出身の患者がALDH2欠損かどうか判断することができる。日本の社会において、ALDH2欠損は、二つの質問で構成されるフラッシングテスト(Box 1)、飲酒後のフラッシングのエピソードに関する質問に答えることで正確に判断できる[25]。一般的な病歴聴取の時に、二つの質問を組み込むことができる。日本の男性では、フラッシングの質問は、90%の感度、88%の特異度があり、陽性の的中率は87%になる[25]。フラッシングの質問は、女性でも88%の感度、92%の特異度がある。
ALDH2欠損の患者が確認されたら、彼らにアルコールを飲むことで食道癌のリスクが跳ね上がるということを説明すべきである。Figure 5(上述)に見られるように、ALDH2欠損の患者さんは、三つすべての飲酒レベルにおいて食道癌のリスクを高めているし、アルコール消費量と食道癌のリスクを示した関連直線は、ALDH2欠損者で傾きが強くなっている。医療従事者はこのグラフを使ってALDH2欠損患者に説明して、アルコールの消費量を減らす説得をすべきであろう。
Figure 5で示されているORsは、喫煙歴で補正している。しかしながら、喫煙は、アルコールと相乗効果を示して食道癌のリスクを高めることも教えるべきである[30]。既に説明したけど、喫煙により、唾液に含まれるアセトアルデヒドのレベルは上昇して、ALDH2欠損の患者さんでは、アセトアルデヒドを唾液から除去する能力は低下している。
食道癌のハイリスクの患者さんは、早期発見のために内視鏡の検査を考えるべきである。食道癌になりやすい患者をスクリーニングするため、アルコールのフラッシング、アルコールの消費量、喫煙、食事パターンを考慮して候補を選別するための健康障害の評価をするツールが開発されていて有効である[31]。フラッシングの質問が最も重要なパートになるが、この健康障害評価ツールを使って、スクリーニングのテストでトップの10%に含まれると、すべての日本人から約58%の割合で食道癌を同定することができると考えられている[31]。
早期発見すれば、内視鏡下粘膜切除により治癒させることができる。これは比較的侵襲性の低い方法である。しかし、癌が、粘膜下層を超えてしまうほど大きくなってしまえば、リンパ節転移の比率が跳ね上がる[32]。食道癌が発見されてからの三年生存率は、たった20%になってしまう[3]から、病気の予防が非常に重要だということを強調しておく。
ALDH2欠損の大学生は、大学にいる間に、大量に飲む経験をするだろう。それゆえに、大学における健康の専門家は、ALDH2欠損、顔面フラッシングとアルコールに関連する発癌リスクに関して目を光らせておくことが重要になる。ALDH2欠損の若者に、アルコール消費と食道癌の危険性を教えることで、発癌予防の重要な機会になる。しかしながら、フラッシングの質問事項の正確性は、40歳以上の人から得られたデータであり、アルコールの消費の限られている、ALDH2欠損の若者を評価するために、エタノールパッチテスト(Box 1)も使用できる[13]。パッチテストをすると、エタノールを皮膚につけて、その部分でアセトアルデヒドに代謝される。(SDHとALDHは皮膚の線維芽細胞で検出できる[33]。)もしアセトアルデヒドが酢酸に代謝されないなら、アセトアルデヒドによって血管拡張が引き起こされ、局所的な紅斑が認められる。フラッシングの質問と同様に、エタノールパッチテストも簡単で安価であり、感度も特異度もあり、活性の無いALDH2の陽性適中率も高く、若い日本人の90%以上である[34]。
ALDH2欠損の人のアルコール消費を抑えることで、どのくらい発癌予防になるのだろう?
最後に、ALDH2欠損の人がアルコールの消費を減らすことで、どのくらいの食道癌を予防することができるのか考えることが重要である。この質問に答えるために、[35]の表を使ってBruzziの方法を使って、人口寄与危険度を再計算した。この計算の結果から、中等度や大量の飲酒者が軽い飲酒に変えると、日本人男性なら、53%の食道の扁平上皮がんの発生を予防することができる。
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コメント
北里研究所病院で化学物質過敏症と診断された患者でアセトアルデヒドについて調べていてこのサイトにたどり着きました。私は下戸でアルコールは一切飲めません。更に化学物質過敏症の最大がアルコール消毒薬で、それを嗅ぐと発作を起こします。このサイトにアセトアルデヒドに対する欠損遺伝子について書かれていますが、欠損遺伝子は飲む飲まないに関わらず、リスクを抱えるということでしょうか?
投稿: カモメ | 2013年3月 1日 (金) 20時38分