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2008年11月18日 (火)

オメガ3系脂肪酸に関する私見

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以前のエントリー「オメガ3系:いかに騙されているか」のコメント欄に、複数回の質問が入っていたので、返事をするよ。私も勉強できたので、ちょっと感謝かな。

私は栄養学に関する専門的な知識を持ち合わせていないけど、それでも一般の人に比べれば知っているだろう。私の知っている情報に絡めて質問に答えながら私の疑問点も解説しよう。

まず、コメント欄で質問者に挙げられているリンクを見て、感じたことを一つ言っておこう。どれもこれも健康食品を扱っている会社の情報ページ。文責者、情報の出典も明記されていないし、情報の又聞きを載せているのだろう(私も人のことは言えないけど)。

インターネットから正しい情報を抽出する難しさかな。どうもこの読者は、オメガ3系に関して正しいと思われる情報をゲットできていない。一般の人には難しいのかもしれない。

こんな事を考えながら、彼か彼女の質問に答えていこう。

まず、最初の質問:

「言い換えれば、「オメガ3系」とラベルされた食材を買うことは、オメガ6系脂肪酸を高濃度に含んでいる食材を手に入れていることになる - 事実、まったくEPAもDHAも摂っていないことにもなっている。」
とのことですが、次のサイトにおける記述に対して、どのように反論されますか?
「α-リノレン酸は、体内でエネルギーになりやすく、必要に応じからだの中で同じn-3系多価不飽和脂肪酸グループのEPA、DHAに作り変えられることが特長です。」

やっぱりこの読者は混乱しているよね。こういう混乱した読者が健康食品関連会社のラベルのトリックに引っかかってしまうと思う。健康食品関連会社の企みから逃れるための知識を付けよう。

私の認識では、オメガ3系の油と言えば、オメガ6系に比べてオメガ3系の比率が高い場合、オメガ3系の油と言える(不飽和脂肪酸:Wikipedia)。しかし、食品に付けるラベルの規制はどうなんだろう。オメガ3系統の油がある程度の基準値以上入っていれば表記してもいいかもしれない(米国と日本でも違うかな?)。これは法的な問題になるので、ご存じの方がいらっしゃれば教えて欲しいね。

次に私の記述の問題。α-リノレン酸、EPA、そしてDHAはオメガ3系の多価不飽和脂肪酸に属するっていうのは分かるでしょ。

私は記事の中で、「EPAもDHAも摂っていない」と書いているけど、「α-リノレン酸からEPAやDHAにまったく変換されない。」とは言っていないよね。

この文章の言いたかったことは、オメガ3系とラベルされていても、α-リノレン酸とオメガ6系の油しか含まれていないため、オメガ3系というラベルから消費者の想像するEPAやDHAが含まれていないかもしれないと言いたかったんですよ。α-リノレン酸からEPAやDHAに変換される、されないっていう事を問題にはしてないよ。

じゃあ、彼か彼女が問題にしている「α-リノレン酸からEPAやDHAに変換されるのか?」という質問だけど、これは栄養学の基礎的な話になるので、答えはイエスだ。

基礎的な話をちょっとすれば、多価不飽和脂肪酸は必須脂肪酸(必須脂肪酸:Wikipedia)であり、オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸が存在する。

ヒトの体内で合成できないリノール酸とα-リノレン酸から、数々の生命反応のために必要なエイコサノイドの合成はされていく。

その合成過程で、α-リノレン酸からEPAを介してDHAが合成されていく。

この合成過程に必要な酵素が存在するよ。Delta-5 Desaturase(デルタ5デサチュラーゼ)とDelta-6 Desaturase(デルタ6デサチュラーゼ)っていう耳慣れない酵素だ。

このデサチュラーゼ、実はオメガ6系のリノール酸からアラキドン酸へのカスケードの合成も進める。ようするにオメガ3系と6系に共通した酵素になっていた。

Wikipediaの必須脂肪酸に次のような記述がある:

ただし、n-6脂肪酸はリノール酸、n-3脂肪酸はα-リノレン酸を原料として同じ系列の脂肪酸を体内でも合成できるため、狭義ではリノール酸とα-リノレン酸のみを必須脂肪酸に分類する。ただし、体内で合成できる量だけでは必要量を満たすことができないとも考えられるため、判断は分かれる。

基礎栄養学第2版(東京化学同人)を調べても同様の記述が見つかる:

不飽和化反応は年齢や摂取する脂質の種類や量、他の食品との作用に影響を受け、うまく進まない場合もあるので、妊婦や乳幼児ではリノール酸やα-リノレン酸だけでなく、DHAやアラキドン酸を直接摂取する必要がある。

この基礎栄養学とい教科書、リファレンスを全く載せていないから、いい教科書とは言えない。このデサチュラーゼの活性が年齢で変化するというデータは、どこにあるの?摂取する脂質の種類や量との関連データは?他の食品との相互関係は?生データを見たいのにリファレンスを示してないなんて許せないよね。単なる作者の推測かも?そんな事ないよね。教科書に載せてるんだから。

結局、PubMedを使って調べなければならない。

ちょっと調べたけど、デサチュラーゼに関する文献は山のようにある。時間がないから、いいレビュー記事を見つけられなかった。しかし、α-リノレン酸から変換されるEPAやDHAの量は限られていて不十分なんだろうね。そういう理由からEPAもDHAも必須脂肪酸に含まれるっていうのも納得できるだろう。詳しい情報を知っている方がいらっしゃれば教えて下さい。

それじゃあ次の質問に移ろう:

仮にアルファリノレン酸からはEPAやDHAへ全く変換されないとした場合でも、アルファリノレン酸自体はオメガ3としての効果効能があるのではないのかということ。

仮に変換されないという仮定はなくなるよね。変換されるけど、デサチュラーゼで変換されるEPAやDHAの量は少ない(前述したように。でも、どの位か知らないよ)から不十分だよ。

もう一つ、α-リノレン酸はオメガ3系なんだから効果効能があるか?って事だけど、α-リノレン酸は生理活性を持つエイコサノイドの前駆体なわけで、変換されなかったら生理活性は持たないよ(教科書より)。

じゃあ最後の質問:

例えオメガ3製品の中にオメガ6成分が含まれていても、従来のオメガ6製品に比べて体にいいのではないのかということです。

まあこれは正しいかもしれない。でも、オメガ3系とオメガ6系の合成過程は、協調拮抗的な合成過程を示しているから、この比率は重要になる。まだ詳しい事は分かっていないと思う。

より詳しい情報を調べるために、PubMedを当たるといいだろう、情報の大海から真理を見つけていくっていう作業も楽しいよ。

栄養学は本当に分かっていないことだらけです。デサチュラーゼの活性化機構だってハッキリしてないんじゃないかな。

さて、私も色々書いたけど、間違いの指摘をしてくれると嬉しい。色々と知りたいことは沢山あるからね。知ったかぶりはしないので更なる質問をしてくださいな。

それから最後に一言だけ。こういう合成過程を気にしたり、オメガ3系と6系の比率が気になりだしたら、前日話した、ニュートリショニズム(Nutritionism)に陥ってしまうよ。重要なのはオメガ3系や6系じゃない。自然食、本当の食事をすることが重要だ。油に拘るより加工食品を止める事を考えないと意味がないよ。

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コメント

「オメガ3の私見」を読み、摂取脂質の内容にも気に留めておくべきことがあるのだなと感じたが、やはり、最後の一言に尽きるのではと考えます。きちっとした本当の食事をいかに取るか大事ですよね。

投稿: Mondo | 2008年11月20日 (木) 10時56分

α-リノレン酸って、心筋梗塞のリスクを減らすんですね。
Alpha-Linolenic Acid Reduces Risk of Nonfatal MI
http://www.medscape.com/viewarticle/577420

投稿: | 2008年11月22日 (土) 10時21分

 オメガ3系脂肪酸を作り出すために、α-リノレン酸にさまざまな酵素が関与しているんですね。私は文系出身なので、最も身近にある『人体』で様々な反応がおきていることを学ぶことについて、とても新鮮味を感じます。

投稿: タケノコの里 | 2008年11月25日 (火) 21時45分

α-リノレン酸と心筋梗塞の関連に関する情報ありがとう。
Medscapeは知っていたけど、購読していなかったので、これを機会に入りました。ちょっと読んで意見があるから、また後で書きます。

タケノコの里さん、私は、探求心に文系も理系もないと思っています。興味のあることならドンドン深みに入って行こう。

投稿: 屋台ブルー | 2008年11月26日 (水) 16時37分

余談ですが、年末頃には、
http://www.medpedia.com/index.php/Main_Page
というサイトが立ち上がるそうですよ。

投稿: fumixie | 2008年11月26日 (水) 20時44分

アトピー性皮膚炎患者の低n-6系列多価不飽和脂肪酸食の効果
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004624905/

投稿: RON | 2008年11月29日 (土) 19時06分

田井先生の言われたとおりリノレン酸からEPA、DHAができる経路があったとしても、その量は想像以上に微量なんだろうというところに同意ですね。EPA(20:5)→DHA(22:6)だけとってみても、炭素数を2個も増やして、なおかつ必要な場所に2重結合を1つ増やす。。。。。できすぎでしょう・・・切断は容易くても合成は難しいと普通に考えますよね。

投稿: とある薬学出身者 | 2014年7月 7日 (月) 11時19分

とある薬学出身者様、コメントありがとうございます。
武田薬品工業から「ロトリガ」が発売された当初、開発に関わった先生方に色々と質問したことがあります。やはりリノレン酸からデサチュラーゼによるEPA、DHAへの変換は微々たるもので考えなくてもいいという説明を受けました(文献的なエビデンスではありませんが)。そういうことでDHAの服用には意義あると信じているので、ロトリガは服用していますよ。

投稿: 屋台ブルー | 2014年7月 9日 (水) 22時55分

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