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2008年8月11日 (月)

エクササイズ・ピル

Newlogoちょっと忙しかったのと先週Diet Blogで紹介されていた「The Exercise Pill」の出典が雑誌Cellだったから、ついつい文献を読んでしまった。

いやあ、雑誌Cellにちょっと反応してしまったんです。ライフサイエンスの分野で働いているなら知らない人はいないし、Cellのフルペーパーを読んで理解できたら一人前の科学者だよ、と先輩に言われた事もあった。

私はCellの報告をまともに読めなかったので、結局、研究者にはなれなかったんだけどね(笑)。

Diet Blogの記事を読むだけじゃ、ちょっと理解できないから、精読してしまった。なんか昔の論文の抄読会を思い出すな。

独断と偏見に満ちた論文解説をするから、今日の話は一般の人には難しいと思う。無視してね。まあ、こういうのも好きなんでご勘弁。

AMPK and PPARδ Agonists Are Exercise Mimetics
AMPKとPPARδのアゴニストはエクササイズを模造する

タイトルは、このペーパーの主題になるから肝に銘じなきゃならない。AMPKとPPARδアゴニストの両者が、この研究の主役だ。

文献を読む場合、どのパートを重要視する?研究者によって意見の分かれるところかもしれない、私は図(Figure)が最も重要だと思っている。図には生の結果が示されているからだ。著者によるバイアスは少ない。でも、ディスカッションは、著者による言い訳なんで(怒られるかもしれないな)、人によって結果の解釈は変わるだろう。正しいか間違っているか判断できないよね。

とりあえず、全体像を掴むために要約(Abstract)を読もう。

エクササイズど同様の効果を示す内服薬の研究に研究者の興味が向いていて、天然物質のレスベラトロール(reseveratrol)が最近、注目されているけど、正確な反応経路はわかっていない。だったら、正確な反応経路の分かっている薬剤を使って、マウスのエクササイズ効果を調べたっていう始まりだ。

以前に、PPARβ/δアゴニストとエクササイズの組み合わせの相乗効果で、筋原繊維の酸化反応とランニング耐性を増加させたという知見を持っているし、エクササイズによって、AMPKとPGC1αの活性化も起こる事を知っているので、内服することで、AMPKを活性化できるAMPKアゴニスト、AICARを使ったら、エクササイズの代わりになるんじゃないかどうか調べてみた。そしたら予想外に、エクササイズをさせないマウスでも、AICARを4週間だけ使ったら、脂肪酸化のための遺伝子は活性化されランニング耐性は44%も改善したんだそうだ。そうなんですよ。この研究は、オーラル(口から入れる)薬剤だけで、AMPK-PPARδの経路を活性化させて、エクササイズをしなくてもトレーニング耐性を増加させることができたという画期的な発表だったんです。

ここまでがアブストラクトの内容。普通ならアブストラクト読んで終わりにするけど非常に興味深いし、この分野はどこまで研究が進んでいるのか知るためにじっくり読んでみよう。

Cellが超一流の雑誌と言われる所以は、報告に無理のない物語(ストーリー)があるからと教えられた事がある。全く新しい分野を勉強する場合、Cellの報告を読んで、リファレンスも読んで理解すれば、その分野のバックグラウンドの知識を系統立って習得することができる。

そういう訳で、このエクササイズ・ピルの研究背景をしっかり理解するためにイントロダクション(Introduction)はしっかり読もう。

素晴らしいね、骨格筋の基本的な構造に関する最新の知見の説明から始まっている。筋原繊維にはタイプI、タイプIIaにタイプIIbの三種類が存在して、代謝と収縮の機能が異なる。脂肪酸化中心のゆっくりとした収縮のタイプIと糖分解中心で速い収縮のタイプIIがある。

まず、話の流れとして、エクササイズをすることで、この骨格筋の構造にリモデリングがされる報告の紹介をしている。実は、トレーニングをすればタイプIの脂肪酸化中心でゆっくりとした収縮をおこす骨格筋へリモデリングが生じて、肥満解消やメタボの予防になったり廃用性変化にも抵抗力ができる。

ここまでエクササイズによる骨格筋のリモデリングの研究報告を紹介してから、次にエクササイズと似た効果を示す天然物質、レスベラトロールの話題に入る。彼らが取り上げているって事は、この分野の研究で、レスベラトロールを無視できないほど報告があるのだろう。でも、「elusive」という言葉を使っているように、ハッキリとした事は分かっていないようだ。とりあえず、分かっていることと言えば、骨格筋に存在するSIRT1-PGC1αコンプレックスの存在下でレスベラトロールの効果は発揮されるみたいだけど、SIRT1/PGC1αのターゲットなど下流の経路は分からないし、この両者とも複数のターゲットがあるし、運動耐性を高めるシグナルパスウエイは分からない。

じゃあ彼らは、どうしてAMPKとPPARδに目を向けたか理由を次に説明してある。エクササイズをすることで活性化する転写活性やセリン・チロシンキナーゼの活性化はごまんと存在する。著者らは、その中で、PPARβ/δが重要な役割を占めていると以前に報告していた!このペーパーでは「critical role」という一言で、重要性を説明している。本当に重要かどうか自分で判断したいなら、彼らの古いペーパを読む必要があるだろう。でも、私は興味本位で読んでるから。パス。彼らが重要って言うなら重要なんでしょう(笑)。

それでも次の一文を読んで驚いた。ちゃんとPPARδを強制発現させているトランスジェニックマウスを製作しているんだ!このマウスはVP16-PPARδっていうけど、ここからPPARβは話から消えている。どうしてβでなくてδなんだろう。この問題の答えを知りたかったらWang先生の文献も読む必要があるんだろうな... でも、当然のように私はパス(平成20年9月26日追記:いやあ、びっくりしました。時々覗いている土門さんのブログで、このWang先生の文献が紹介されていたよ。読まなきゃね)。いつの間にか私の頭の中にはPPARδだけが刷り込まれていく(笑)。そしてこのPPARδを強制発現させたマウスは脂肪酸化が活性化しているし運動耐性も非常に優れている。

次にAMPKの話に入るけど、著者によると、AMPKは誰もが知っている代謝経路の神様みたいな存在と説明している。だって、「master regulator of cellular and organismal metabolism」だよ。なんかジェダイ・マスターみたいだ(最近スターウオーズを観たんで...)。まあどっちにしろ、AMPKは運動生理学に貢献している報告もあるから無視する訳にはいかないと言っている。AMPKを選んだ理由は、素人の私には分からない。

まあどっちにしろ、AMPKとPPARδの関わりの説明に入る。

合成されたPPARδ、もしくはAMPKアゴニスト、どちらが骨格筋のリモデリングを導いて運動耐性を増すことができるのかという疑問が彼らに浮かんだらしい。でも著者らはいい道具をもっている。GW1516っていうPPARδのアゴニスト。これを使って、トレーニングをさせれば、GW1516で処理したマウスの運動耐性が飛躍的に上がって、長く走ることができるようになるんだって。でも、エクササイズを一緒にしなきゃいけないけどね。これはどういう意味か分かるよね。PPARδとエクササイズで活性化する何かを必要とするっていう意味だね。しかし、このPPARδが活性化した状態を「super-endurance phenotype」と呼んでいる。なんか英語は格好いいね。日本語にしたら「超耐性表現型」ってことかな。

次に、エクササイズで活性化したAMPKによって、この超耐性表現形のマウスの遺伝子転写活性が跳ね上がり、運動耐性を示す遺伝型を導く結果を示したんだ。

そして今回の発表につながる実験へ話が進んでいく。実はAMPKを活性化できる内服する薬、AICARを飲むだけで、エクササイズをしなくてもこの超耐性表現形のマウスの運動耐性を45%引き上げてしまったとさ。

これでイントロダクションの終わり。ここまで読んで理解できれば、この分野の最近の流れを知ることができるね。

それにしても興味深い話題だ。次から始まる結果(Results)が楽しみになる。

GW1516 increase Muscle Gene Expression but Not Endurance in Sedentary Mice
GW1516によって筋肉の遺伝子発現は増えるけどエクササイズをしないマウスの運動耐性は上がらない。

さっそくGW1516、PPARδのアゴニストを使った実験結果を示している。酸化反応を示すバイオマーカー、Ucp3、mCPT1、PDK4の遺伝子発現を観察しているんだけど、やっぱり勉強不足の私にはわからないところが出てきました。GW1516でマウスをどう処理しているのだろう?Experimental Proceduresから考えないといけないけど面倒だな。

次の文章...
We treated wild-type C57BI/6J age matched cohorts with vehicle or GW1516 for 4 weeks.
があるけど、「wild-type C57BI/6J」は培養細胞ではなくて、生体のマウスの品種番号ですよね。そうなると「vehicle」は遺伝子を発現させられるプロモーターを含んだ空のベクターのようなもの?GW1516っていう遺伝子のを発現される何か?じゃあどうやって生体に導入できるのだろうか?レトロウイルスの皮下注射?内服でGW1516を摂取させている訳じゃないだろう。遺伝子を生体内で発現させているんだろうな。

さて、酸化マーカーは、私にとってどうでもいい(この分野の研究者なら知らなきゃいけないけどね)けど、既にコンセンサスを得られているマーカーなんだろうね。データーは紹介してないけど、これらのバイオマーカーの発現はゆっくりした収縮をするタイプI骨格筋ではなくて、速い収縮をするタイプII骨格筋で顕著に上昇するらしい。

それにPPARδの発現をしないヌルマウスの初代培養細胞を使って、バイオマーカーの発現は、PPARδを介しているかどうか確認したデータをサプリメンタルデータに載せている。GW1516で処理してもPPARδが無いとバイオマーカーの発現は見られない。

更に、PPARδの強制発現をしているトランスジェニックマウスVP16-PPARδとワイルドタイプのマウスにおけるバイオマーカーの遺伝子発現の違いをFigure1Aに載せている。

今まで話した実験結果は、「GW1516 → PPARδ → Ucp3、mCPT1、PDK4」の流れをサポートする実験で、彼ら曰く、薬剤によるPPARδの活性化だけで酸化マーカーの反応を引き起こすのに十分だそうだ。

じゃあGW1516で処理したマウスと、コントロールのマウスのトレッドミルを使った運動耐性テストをさせてみた結果がFigureaBだ。

この結果は、GW1516を使ってPPARδを活性化させても運動耐性の改善が見られなかったという結果だ。彼らは奇妙だって言っているけど。もし、ここで差が出るならこの報告は終わってしまう。どうして、PPARδの活性化だけで運動耐性の改善が見られないのか話が続くんですよね。このストーリー性が雑誌Cellの面白いところだ。

GW1516 Remodels Skeletal Muscle in Exercise-Trained MIce

エクササイズをさせたマウスだったらGW1516で骨格筋のリモデルがおこる。

じゃあちょっと視点を変えて、エクササイズをしたら骨格筋のリモデリング(タイプIとタイプIIの変換)が引き起こされる過去の報告を考えると、GW1516とエクササイズを組み合わせは、骨格筋のリモデリングを効果的に引き起こす事ができると推測できる。それで、骨格筋の組織片を染色して見せたのだFigure1C

Figure1Cと1Dによって、PPARδを活性化させるだけでリモデリングは進まないけど、トレーニングによって引き起こされた「何か」によって骨格筋の構造変化が引き起こされているってのが示されている。ミトコンドリアの機能マーカーになるMitochondrial DNA Contentも増えている(Figure1E)ので、機能的にも構造的にも変化が生じているのだろう。

じゃあ次は、脂肪酸の酸化反応に対してどんな効果があるのか調べたくなるよね。ここから少し話が複雑になってくる。Figureを見ながら頭を整理して欲しい。

PPARδを活性化したら脂肪酸の酸化マーカー、Ucp3、mCPT1、PDK4の発現は増える結果をFigure1Aで示したけど、これらの反応はトレーニングをさせても、更なる増加は認められなかった(Figure2A)。 ということは、これらの酸化反応と骨格筋のリモデリングには関連がなさそうだなって思える。

次に彼らが見つけたのが、脂肪の貯蓄に関わる酵素群、Scd1、FAS、SREBP1c、FAT/CD36、LPLなどは、GW1516単独でも、トレーニングだけでも発現増加は見られなかったけど、両者の組み合わせたときだけ増加した(Figure2B、2C)。

ここで始めて蛋白の発現も調べている。蛋白発現をちゃんと示しているのもいい。Figure2Dを見てもハッキリしないけど、GW1516とトレーニングを組み合わせたパターンだけ最も蛋白発現が強くなっているらしい。Ucp3は変化しない方がいいと思うんだが...

GW1516 and Exercise Training Synergistically increase Running Endurance

GW1516とエクササイズの組み合わせで運動耐久性を強化される。

さあ、ここからこの論文の前半の核心部分に入る。GW1516で酸化反応を引き起こす遺伝子の発現変化を引き起こすことができたけど、実際に運動耐性を改善するにはいたらなかった。GW1516とエクササイズを組み合わせると骨格筋のリモデリングを引き起こされたので、運動耐性に改善が見られるかどうか調べたのがFigure3Aと3Bである。この結果は凄いことになっているね。GW1516とエクササイズの組み合わせは、5週目で100%以上の運動耐性の向上がみられるということは、何かまったう新しい耐久性を強化させる概念が存在するかもしれないと考えている。サプリメントデータだけど、体脂肪の比率も減った組織片も見ることができる。

PPARδ Agonist and Exercise Establish an Endurance Gene Signature
PPARδアゴニスト(GW1516)とエクササイズの組み合わせが示す運動耐性の遺伝発現の特徴

この運動耐性が強化された表現形のことを「超耐性表現形」ってアブストラクトの所で説明したよね。どうして、こんな表現形になるのか調べていくんだよ。ワクワクするね。

一般的な実験的テクニックのDNAアレーの技術を使って、骨格筋のトランスクリプトームをGW1516、トレーニング、GW1516とトレーニングの組み合わせの3パターンで、遺伝子発現の亢進と抑制を調べると、Figure3Cに示したような遺伝子発現の動きを掴むことができたんだけど、最近の研究は本当に凄いね。

ここで彼らが驚いたのは、GW1516とトレーニングを組み合わせたグループで、新規の48遺伝子の発現の変化が見つかったということ。この組み合わせで130の遺伝子発現の変化があり、108遺伝子で増加、そのうち32%は有酸素運動にかかわる遺伝子だったんだって。

それに非常に興味深いのが、PPARδを強制発現させているトランスジェニックマウスを覚えているかな?VP16-PPARδは、GW1516とトレーニングをさせたマウスの遺伝子プロファイルに似ているんだ!(Figure3E)

ここまでをまとめると、ここで新規に制御を受けている48遺伝子によって、PPARδを強制発現させたトランスジェニックマウスの能力まで高めることができる可能性があるってことだ。さあ、次はどうする?

AMPK-PPARδ Interaction in Transcriptional Regulation
転写制御におけるAMPKとPPARδの相互関係

エクササイズとPPARδに関わってくる「何か」を調べなきゃならないよね。エクササイズによって色々なキナーゼの活性化を引き起こす(エクササイズによって引き起こされる113遺伝子の発現には含まれないだろう。これは既に存在するキナーゼの活性化を示してるだろう。遺伝子の発現や、蛋白発現じゃないからね。分かります?ややこしいよね)。

この中でAMPKを選んだ理由を取り上げているけど、FIgure4Aを見れば、エクササイズをしてもしなくてもAMPKの総タンパク量に変化は無いけど、リン酸化されたAMPKは増えている。これは免疫沈降というテクニックでリン酸化されたAMPK(リン酸化された状態を活性化されたと考えているんですよね)が増えているということを示している。このパターンは例えエクササイズをしていなくてもPPARδを強制発現させていれば同様の結果になっている(Figure4B)。

このAMPKのリン酸化はGW1516を処理するだけでも、トレーニングをするだけでも起こらないんです。当然、これは重要な事だ。

ここまでを総括すると、AMPKとPPARδのコンビネーションによって運動耐性の表現形がでてきている可能性があるって想像がつく。

ここで細胞に浸透するAMPKアクティベーター、AICARが出てくるけど、AICARとGW1516の組み合わせと、エクササイズとGW1516の組み合わせによる遺伝子発現パターンを比較した結果がFIgure4Cだ。彼らによれば、共通の遺伝子が52もあれば類似性が高いと言っているけど、私のような素人からみれば、オーバーラップしてない遺伝子の方が多い印象だけどね...

さて、この共通する52個の遺伝子の分類を見ているのがFigure4Dで、脂肪の酸化反応に関する遺伝子発現であって、SCD1、ATP Citrate Lyase、HSL、mFABP、LPL、PDK4なんかは、AICARとGW1516が協調的に働いて発現が増えている(Figur4E-J)。なんとも凄いのが、これら遺伝子の発現は、PPARδ強制発現のVP16-PPARδでも同様に増加しているってこと。

今までのことをまとめて総合的に考えると、AMPKとPPARδは、エクササイズにより骨格筋にリモデリングが生じる反応に協調的に働くことが分かった。

AMPK increases Transcriptional Activation by PPARδ

AMPKは、PPARδによって活性化する転写活性を増強させる。

何度も言うけど、今までの結果から、PPARδで活性化した転写経路を、AMPKは直接調整している可能性が出てきた。じゃあ、GW1516とAICARを使って、正常マウスの骨格筋初代培養細胞とPPARδの発現欠損のマウス骨格筋初代培養細胞を比べて、AMPKはPPARδに依存した転写活性調節をしていることが分かった(Figure5A-5D)。

じゃあ次はどんな相互関係をしているのか調べるために、細かな分子生物学的なテクニック、トランスフェクション実験をしている。AMPKのα1サブユニットとα2サブユニットと、PPARδをレポーター遺伝子に組み込んだものをコトランスフェクトして発現活性を見ている。たぶん、普通の人はなんのことやら分からないだろう。私もPPRE-driven reporter遺伝子をよく知らないけど、ルシフェラーゼ(GFR)やβガラクトシダーゼ(β-Gal)を使って転写活性を調べるレポーター・ジーン・アッセイはしたことがある。でも、この説明は、割愛する... さすがに説明するのが疲れた。興味があるなら教科書を読んでください。私は調べる気がしない...

Figeure5Gと5Hの結果から、AMPKとPPARδは、直接的、もしくは間接的に相互作用してる(ディスカッションで直接結合している可能性があると言っている)。Figure5Iを見たら、AMPKはPPARδと相互作用するけどど、PPARδを活性化することはできてない(リン酸化に変化が無いから)と言っている。そして、Figure5Jから、PGC1αがPPARδの活性化に関与(直接かどうかは分からないよ。この実験だけでは、でも関わりがあるだろうって言えるだけ)してて、Figure5Kから、PGC-1αは直接AMPKと相互作用がない(くっついていない)って言っている。

いやあ、Figure5は、小さな結果の寄せ集めで、彼らの仮説を立証するために重要なデータだ。

Pharmacologic AMPK Activation increases Running Endurance in Untrained Mice
運動をさせないマウスでもAMPKを薬剤として投与して運動耐性を増加させる

さあ、最後は、一番インパクトのある実験結果を示しているから説明に入ろう。今までの結果で、PPARδを薬剤として投与しても、運動耐性を強化させることはできなかったけど、エクササイズを組み合わせると効果的に運動耐性が強化された。エクササイズをさせたり、PPARδを強制発現させたVP16-PPARδトランスジェニックマウスの結果からAMPKが運動耐性の鍵になることも分かった。

AMPKに関する色々な報告を紹介しているように、色々な転写活性の調整をしているようで、一番気になるのは、AMPK単独で、運動耐性を増加させることができるかどうかだ。

これを確かめた実験の結果がFigure6だ。

マウスをAICARで処理したらAMPKαサブユニットとACCのリン酸化が増加して、UCP3の発現も増えた(Figure6A)。もっと面白いのが、体重は変わらないのに(Figure6B)、体脂肪率は変化して(Figure6C)、酸素の消費量も増えてしまった(Figrue6D-6E)。

AICAR単独で運動耐性が増加する可能性を秘めているわけで、実際、FIgure6Fを見れば、23%長時間走れて、44%長く走ることができた!これはエクササイズをしなくてもだ!

実は、AICAR単独の処理で、脂肪酸化に関わる32の遺伝子の発現と関連があって、このうち30遺伝子はPPARδ強制発現マウスVP16-PPARδと共通する。

AMPKの刺激っていうのはPPARδの発現に依存している可能性があるから、これを確認したのがFigure6Hだ。AICARをPPARδの発現しているマウスと発現の無いマウスに作用させて、脂肪酸化に関わる遺伝子の発現活性を調べてみると、PPARδの発現の無いマウスの細胞では、脂肪酸化に関わる遺伝子の発現は見られなかった。

ディスカッション

これで全部の結果の説明が終わった。ディスカッションには膨大な数のリファレンスが紹介されていて、既存の報告に絡めて自分たちの報告の説明付けをしている。Figure6Iが彼らの仮説だ。それにしても説明が多いから端折ります。あくまでもAMPKからPPARδへの反応は、運動耐性を引き起こす骨格筋における脂肪酸化の一経路だ。この反応が耐性のメインかどうかは分からない。ディスカッションでも触れているけど、耐性には心臓、内分泌、神経筋肉システムでも起こっているし、この研究だけでは不十分なのは明らかであり、転写活性は様々な因子のクロストークによって制御されている。トレーニングだけと、トレーニングとPPARδの活性を比べても、異なる遺伝子発現を示すし、遺伝子発現(蛋白発現と単純に考えるにしても)と、各種キナーゼの活性有る無しを考えれば、あまりにも複雑な絡み合いがあるわけで、誰にも理解できないだろう。

こういう複雑な関連性を美しいストーリーで説明してくれた今回の報告は、私のような素人にも解りやすかった。最先端の研究者にもなれたように感じたね。面白かった。

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